悪性腫瘍 遺伝子検査 一覧

2018.12 取材・文:柄川昭彦 がんゲノム医療の時代が始まろうとしています。それに伴い、がん細胞における数百の遺伝子を一度に調べる遺伝子パネル検査が開発され、広く実用化される一歩手前の段階まできています。東京大学が開発した「東大オンコパネル(Todai OncoPanel)」は、がんに関連する464遺伝子のDNAと、463遺伝子のRNAを調べる検査で、2018年8月から先進医療Bとして実施され、この検査を受けたことによって治療選択に役立つ情報が得られた患者さんがどれくらいいたかが検証されます。今後の日本のがん医療のためにも、日本で開発された遺伝子パネル検査が承認されることが期待されています。 がんの治療が大きく変わろうとしています。現在注目を集めているのは、がん細胞の遺伝子を調べ、得られた遺伝子情報の解析に基づいて行われるゲノム医療です。従来のがん治療は、肺がん、胃がん、大腸がんというように、臓器別の分類に基づいて行われてきましたが、がんゲノム医療では、1人ひとりのがんの遺伝子情報に基づいて治療が進められることになるため、遺伝子を調べる優れた検査方法が不可欠です。 がん細胞の遺伝子を調べる「東大オンコパネル(Todai OncoPanel)」は、東京大学で開発された検査方法で、2018年8月から先進医療Bの枠組みで実施されています。Todai OncoPanelの性能が試され、その結果次第では、薬事承認、保険収載へと進み、将来的には保険で受けられる検査になる可能性があります。がん治療の新しい時代が始まろうとしていると言っていいでしょう。 がんに対して遺伝子情報に基づく治療が行われるようになったのは、がんが遺伝子の異常によって起こる病気だからです。がん細胞では、さまざまな遺伝子変異が生じています。そして、遺伝子の中には、細胞の増殖や細胞の生死にかかわるタンパク質を作っているものがあり、それが遺伝子変異により正しく働かなくなることで、無秩序に増殖を続けるがん細胞を生み出してしまいます。 こうした遺伝子変異の働きをブロックする作用をもつ薬が、がんの治療で使われている「分子標的薬」です。がん化にかかわる遺伝子の異常に働きかけることで、がん細胞の増殖を抑え、治療効果を発揮します。 分子標的薬が登場する前から使われていた従来の抗がん剤は、基本的に細胞を傷害する薬で、がん細胞にも正常細胞にも作用します。ただし、抗がん剤が毒性を発揮するのは細胞分裂が行われるときで、正常細胞よりも早く増殖するがん細胞のほうが、大きなダメージを受けます。それによって治療効果が発揮されます。しかし、正常細胞も傷害されるため、強い副作用を伴うことになります。 その点、分子標的薬は、標的とする遺伝子変異がある細胞だけに働きかけるので、従来の抗がん剤のような副作用は現れません。薬剤によって特徴的な症状が現れることもありますが、殺細胞性の抗がん剤より副作用は比較的軽いと言われています。 しかし、分子標的薬が標的とする遺伝子の変異がないと効果がありません。そのため、分子標的薬は、患者さんのがん細胞に標的があることを検査で確認してから使用します。たとえば、肺がんの薬物療法を行うときには、がん細胞のEGFRという遺伝子に変異があるかどうかを調べます。変異がある場合には、それががんの増殖にかかわっていると考えられるため、EGFRを標的としてゲフィチニブ(製品名:イレッサ)などの分子標的薬が使われることになります。同じ肺がん患者さんでも、EGFR遺伝子変異ではなくALK融合遺伝子がある場合は、ALK融合遺伝子を標的としたクリゾチニブ(製品名:ザーコリ)などが使われます。このように、遺伝子変異の違いにより、同じ肺がんでも使われる薬が異なります。がんの遺伝子に合わせて治療薬を使い分けることで、無駄な治療をせず、効果が期待できる治療選択ができるわけです。 乳がんや胃がんでは、がん細胞にHER2というタンパク質が増えているかどうかを調べます。HER2が増えていれば、それががんの増殖にかかわっていると考えられるので、HER2を標的としてトラスツズマブ(製品名:ハーセプチン)などの分子標的薬が使われます。がん種(がんのできた部位)にかかわらず、HER2陽性であれば、HER2を標的とした分子標的薬が使われます。 分子標的薬は、すでに数十種類の薬が、がんの治療に使われています(表1参照)。そして、肺がんでEGFRの変異があればゲフィチニブなどのEGFR阻害薬を使用する、乳がんでHER2が発現していればトラスツズマブなどの抗HER2薬を使う、といった具合に、特定のがん種で、特定の遺伝子の異常があれば、特定の分子標的薬が使われることになっています。分子標的薬はこのように使用されてきました。表1 がん治療の主な分子標的薬と標的分子 分子標的薬を使ったこれまでの治療では、遺伝子変異は1つひとつ調べられてきました。たとえば肺がんであれば、EGFRの変異を調べ、変異が見つからなければ、次の遺伝子変異を探すという方法です。しかし、最近になって、多くの遺伝子を一度に調べる検査が行われるようになってきました。2003年に、すべてのヒトゲノムの配列が解析され、研究レベルでは、人間のゲノム情報はかなり詳細に調べられるようになっていました。次世代シークエンサーという遺伝子の塩基配列を高速で読み出す遺伝子解析装置が登場したため、ゲノム解析は飛躍的に進歩し、それが普及することでコストもどんどん下がってきました。 技術的には人間のすべての遺伝子を調べることも可能です。しかし、実際にがんの治療に役立てることを考えると、現段階では、その方法は必ずしも効率がよいとはいえません。そこで、がんとの関係が明らかになっている遺伝子を選び出して一度に調べています。このような検査を遺伝子パネル検査といいます。 がんの遺伝子パネル検査は、国内外ですでにいくつかの種類が開発され、海外では実用化されているものもあります。 遺伝子パネル検査で調べる遺伝子の数は、少ないものでは数十の遺伝子ですが、多いものでは500遺伝子くらいのものもあります。遺伝子数が増えれば、それだけ得られる情報は多くなります。ただ、コストも膨らむため、検査費用は高くなります。 がんの遺伝子パネル検査の開発に関して、日本は欧米に比べて少し出遅れていました。たとえば米国では、2017年にFDA(米国食品医薬品局)が、がんの遺伝子パネル検査を承認しており、すでに多くの患者さんが検査を受けています。このまま日本での開発が進まなければ、海外の企業が参入して、日本のがんの患者さんは外国の遺伝子パネル検査を受けることになってしまいます。そうなると、検査費用が海外に流出するだけでなく、貴重な検査データも海外の企業に蓄積されていくことになります。そうした状況を回避するためには、日本で開発された遺伝子パネル検査の登場が待たれていました。 日本で開発された遺伝子パネル検査として最も早い時期に登場したのは、国立がん研究センターが開発した「NCCオンコパネル」です。これは114遺伝子のDNAを調べる遺伝子パネル検査で、2018年4月から先進医療Bとして実施されています。先進医療での患者負担額は46万4000円と報告されています (厚生労働省ホームページ: 第1回がんゲノム医療推進コンソーシアム運営会議(資料)平成30年8月1日より)。国内で最も早く先進医療Bとして行われており、早期の実用化も期待されています。 NCCオンコパネルより少し遅れ、2018年8月から先進医療Bとして実施されているのが、東京大学が開発したTodai OncoPanel(東大オンコパネル)です。この検査は、従来のがん遺伝子パネル検査にはない特徴をもっています(表2参照)。特徴の1つは、調べる遺伝子数の多さです。Todai OncoPanelで調べるのは464遺伝子のDNAです。先進医療Bもしくはわが国において薬事承認申請中のがん遺伝子パネル検査の中で、最も調べる遺伝子数が多くなっています(2018年11月現在)。 もう1つの大きな特徴は、RNAについても調べる点です。通常の遺伝子パネル検査では、遺伝子のDNAについて調べますが、Todai OncoPanelでは技術的に難しいとされていたRNAについても調べます。DNAパネル検査は464遺伝子が対象ですが、RNAパネル検査では463遺伝子(158遺伝子はDNAパネルと重複)を対象にしています。RNAパネル検査は、世界的にみても開発は進んでおらず、Todai OncoPanelの大きな特徴といえます。性能重視で開発され、得られる情報量が多いですが、RNAパネルを搭載している分の費用も要するため、Todai OncoPanelの先進医療での患者負担額は91万5000円となっています。 RNAパネル検査が加わると、融合遺伝子(染色体の転座、挿入、逆位などの組換えの結果、複数の遺伝子が連結されて生じる新たな遺伝子)の異常を検出できるというメリットがあります。がん細胞は遺伝子変異があることで発生しますが、変異が1つあるだけでは、がん化への影響が限定的なことが多いです。ところが、複数の遺伝子が連結し、融合遺伝子の形になると、単独でもがん化に大きな影響を及ぼしうることが知られています。そのような融合遺伝子が何種類か明らかになっていますが、こうした染色体の組換えを拾い上げるのに、RNAパネル検査が役立ちます。よく知られている融合遺伝子には、 融合遺伝子が原因となって発生するがんの頻度は、高いとはいえませんが、融合遺伝子の働きを阻害する分子標的薬を使うことで、大きな治療効果を得ることが期待されます。もともとがん遺伝子パネル検査は、がん種にとらわれず、頻度が低い遺伝子変異を含め、治療標的分子を漏らさずに拾い上げることが目的といえますので、融合遺伝子を確実に検出できるパネル検査の価値は非常に高いと考えています。例えば、肺がんや肉腫において融合遺伝子の検出率が高いことが、Todai OncoPanelでも明らかになっています。 DNAパネル検査では、RNAパネル検査より高い頻度で遺伝子変異が見つかりますが、いくつかの変異が重なることで、がんが発生している場合、単一な分子標的薬で十分な治療効果が得られないこともあります。野球にたとえると、遺伝子変異が蓄積していくタイプのがんは、長打力はないが、コツコツとヒットを打って高打率をマークするバッター(DNAパネルで複数の治療標的が見つかることがある)で、一方、融合遺伝子のように単独でがん化への影響が極めて大きいタイプのがんは、三振が多い(検出される頻度は低い)けれど、ときどき特大ホームランを打つ(著効する治療標的薬がみつかる)一発屋のバッターのようなイメージでしょうか。DNAパネルとRNAパネルの組み合わせが、Todai OncoPanelの最大の特徴といえます。表2 Todai OncoPanelで対象となる遺伝子など(※遺伝子発現量は先進医療Bでは測定するが、返却対象とはしていない) がんの分子標的治療に関しては、免疫チェックポイント阻害薬も注目されています。がん細胞はヒトの免疫から逃れる仕組みを獲得しているので、その仕組みが働かないような薬を使い本来の免疫の力を発揮させてがんを攻撃するのが、免疫チェックポイント阻害薬による治療です。大きな期待がかけられている治療ですが、実際に効果が得られるのは、患者さんの2割くらいであると言われています。どのような患者さんに効果があるのか、これまでは調べようがありませんでしたが、Todai OncoPanelでは、免疫チェックポイント阻害薬の効果が期待できるかどうかにも着目しています。 その判定に必要となる情報は、遺伝子変異数の多さです。遺伝子変異の数が極端に多い状態をハイパーミューテーション(高頻度遺伝子変異:hypermutation、またはTumor Mutation Burden-High)と言いますが、これは多くの場合、ミスマッチ修復遺伝子などのDNA修復に関わる遺伝子の異常によって起こります。ミスマッチ修復遺伝子とは、DNAに変異が起きたときに、すぐにそのミスを修復してくれる遺伝子のことです。この遺伝子に異常があると、DNAに起こったミスをそのままにしてしまいます。それによってハイパーミューテーションの状態になり、がんが発生しやすくなるのです。 ミスマッチ修復遺伝子に異常をもつがんには、免疫チェックポイント阻害薬がよく効く可能性があります。遺伝子変異がたくさんあるがんでは、がん細胞だけがもつ抗原(異物:ネオ抗原)がたくさん発現しているため、異物を排除する免疫の力がもともと発揮されやすいのです。ところが、がん細胞は免疫を逃れる仕組みを使い、免疫が働かないようにしています。このようながんに免疫チェックポイント阻害薬を使用すると、免疫から逃れる仕組みが解除されて免疫の力が一気に発揮され、がん細胞を攻撃するようになるのです。 したがって、免疫チェックポイント阻害薬が効きやすいかどうかは、遺伝子変異の数が多いかどうかが参考になります。Todai OncoPanelの場合、DNAパネル検査で464遺伝子を対象としているため、検出される遺伝子数も多くなります。例えば、20~30以上の遺伝子変異が見つかれば(正確には100万塩基対あたり10遺伝子以上)、遺伝子変異が多い状況であると判断します。一般に調べる遺伝子の数が少ないほど、このような判定を行うのは難しくなります。 米国では、ミスマッチ修復遺伝子に変異がある(もしくはマイクロサテライト不安定性の)固形がんに対しては、がん種にかかわらず、免疫チェックポイント阻害薬のペムブロリズマブ(製品名:キイトルーダ)を使用することができます(2017年5月にFDA承認)。 遺伝子パネル検査がどのように行われるか、Todai OncoPanelを例にとって説明しましょう(図1参照)。 がん細胞の遺伝子を調べるために必要となるのは、がんの組織と患者さんの血液です。がんの組織は、すでに行った手術や検査で採取したものを使用するため、遺伝子パネル検査のために組織を採取する必要はありません。血液を採取するのは、がん細胞の遺伝子情報と正常細胞の遺伝子情報を比較することで、がん細胞のどこに変異が起きているのかを見つけ出すためです。また、正常細胞において、遺伝性腫瘍にかかわる遺伝子に変異(生殖細胞系列変異)が同定される場合があります。 遺伝子パネル検査の解析結果は、複数の領域の専門家で構成されるエキスパートパネルで検討され、どのような意義があるかの検討が行われます。それをレポートにまとめ、担当医が患者さんに説明を行います。 遺伝子パネル検査を受けると、自分のがんの治療に最適の分子標的薬が見つかる可能性があります。特定の遺伝子変異が見つかり、それを標的とする分子標的薬が存在する場合です。その薬が国内で承認されていて、保険で使うことができる薬なら申し分ないでしょう。 自分のがんを治療するのに最適の分子標的薬が、たとえ承認されていなかったとしても、その薬の治験が進行中で、治験に加わる要件を満たしていれば、その薬による治療を受けることが期待できます。また、最適の薬が国内未承認の薬で、海外で承認されている場合、または、国内保険適用の対象がん種でなく適応外使用となる場合、現時点では自費による治療以外は難しいですが、近い将来わが国でも保険適用になる(または対象がん種の適応が拡大される)場合もあります。 一方で、遺伝子パネル検査を受けても、治療選択につながる情報が得られないこともあります。がんの原因と考えられる遺伝子変異が見つからない、もしくは遺伝子変異が見つかってもその変異を標的とする分子標的薬が存在しない場合です。また、見つかった遺伝子変異を標的とする薬はあるが、海外でしか治験が行われていない場合、通常その治験に加わることはできないので、やはり治療選択には直結しません。実際、遺伝子パネル検査を受けても、結果的に治療選択に役立つ情報を得られないことも多くあります。 Todai OncoPanelでは、解析結果を、Tier1、Tier2、Tier3、Tier4、Tier5、TierRの6段階に分類しています(図2参照)。このうち、Tier1、Tier2、TierRに分類される遺伝子変異や、ハイパーミューテーションであることがわかった場合には、治療選択に役立つ情報が得られることになります。先進医療として実施される前のデータでは、Todai OncoPanelを受けた人で、上に示したような治療選択に役立つ情報が得られた人の割合は約33%でした。 このように、遺伝子パネル検査を受けても、必ずしも治療選択に役立つ情報が得られるわけではありません。この検査を受ける場合には、この点をよく理解しておく必要があります。図2 エビデンスレベル分類 Todai OncoPanelにおけるエビデンスレベル分類

EGFR変異解析 v2.0 リアルタイムPCR 原因となる遺伝子がわかっている遺伝性腫瘍については、理論的には遺伝子検査が可能です。 この場合、遺伝子検査は採血した検体約10~15mlを用いて行います。 BRAF V600 変異解析〔PCR〕

RAS・BRAF遺伝子変異解析 ダイレクトシーケンス法

(49) 日本内科学会雑誌 第97巻 第7号・平成20年7月10日 トピックス ii.診断へのアプローチ 4.染色体・遺伝子検査 野村 憲一 要旨 染色体・遺伝子検査は,悪性リンパ腫の診断に有用である.遺伝子検査は,良悪性の鑑別に用いる. ダイレクトシーケンス法

リアルタイムPCR オンコマイン Dx Target Test マルチ CDxシステム 4遺伝子解析 (FFPE)

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D004-2 悪性腫瘍組織検査 (1) 「1」の悪性腫瘍遺伝子検査は、固形腫瘍の腫瘍細胞を検体とし、悪性腫瘍の詳細な診断及び治療法の選択を目的として悪性腫瘍患者本人に対して行った、(2)から(4)までに掲げる遺伝子検査について、患者1人につき1回に限り算定する。 EGFR遺伝子 変異解析(Scorpion-ARMS法) ダイレクトシーケンス法 RT-PCR(Reverse transcriptase-polymerase chain reaction)現在のラボ: リアルタイムPCR